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買い物は「商談通訳」

外国人の「爆買い」が最近よく話題になります。

私の場合は、インドネシアのお客様の買い物に同行することが多く、

大量の買い物を目にする機会があります。



商談 



たかが買い物、されど買い物

買い物」というと気楽に聞こえるけれど、れっきとした「商談通訳」です。

少なくとも私はそう思っています。

また、ガイドの場合「観光の現場」での商談なので、「お客様が楽しむため」というのが大きな目的です。

爆買い」=「どんぶり勘定」や「殿様買い」ではないです。

そこには真剣な「商談」があります。



そう思うきっかけとなったのは、数年前にインドネシアからのある会社経営者の「買い物」に同行したことです。

ゴルフクラブを買いたい」というリクエストを事前に旅行会社から聞いていました。

それで、新宿などいくつかのエリアでゴルフ用品店を事前に調べました。


お会いして話を聞くと、実は既に前日に上野のある店に行って値段やメーカーなど

「下調べをした」

とのこと。

それで、他の店にも行ってみたけれど、やっぱり最初に行った店にもう一度行きたいとのことでした。


そういうことだったのか、と、その店に行きました。

お客様は、前日見たセットをチェック。

さらに、他の商品も改めて値段やデザインその他をチェック。


そして、すぐ買うのかと思いきや、

試し打ちはできますか?

と。


その店では驚くことに(私が知らなかっただけですが!)、

上の階に試し打ちの場所があって、しかもそれを録画して、コンピュータで解析し、

より自分に合ったクラブをアドバイスしてもらい、選べるようになっていました。



ひとしきり試し打ちをした後、より合っている(今後スコアが伸びそうな)方を選ばれました。

いよいよ決めるのかと思っていたら、

支払いはクレジットカードでできるの?」と。

もちろんできますが、現金の方が安いとのこと。

すると、「じゃあ両替してきたい。近くに両替所はある?」と。

銀行はありましたが、歩いて10分ぐらいかかるところでした。

じゃあ、行こう。」と。



え?」と思いました。

だって、社長さんですし、貸し切りハイヤーで移動し、

食事などの予算も「上限なし」と聞いていました。

移動中に開いた手帳には携帯が3つ並んでいて、しょっ中電話がかかってくるという状態の忙しさ。

私だったら、時間ももったいないし、面倒だからさっさと買った方がいいと思ってしまいます。


でも、本当に歩いて銀行まで行って、両替をしました。

で、今度こそ払って終わりだと思っていたら、

ちょっと待って。クラブについているこの『番号』が気になる。縁起がいい番号に変えたい。

と。

また「え?」と思いました。

確かに、小さくついている番号がありました。

ちなみにこの方は中華系でしたが、そんな細かい番号にまでこだわるとは知りませんでした。

そして、「縁起のいい番号(例えば8など)」をメモして店員さんに渡しました。

待つこと15分。店員さんが奥の在庫から

在庫の中で一番縁起がいいセット

をいくつか出してきました。


そしてやっと、商談成立。

現金で支払って、商品を受け取って、何とか時間内に車に乗り込みました。



実は10年以上使っているセットがあって、それを持ってきているのだけれど、

今回思い切って変えたいので、新しいのをケースに入れて古いのは置いて帰りたい、とのこと。

どうしてもスコアをもっと伸ばしたいので、日本で新しいのを買おうと思ってきた、と。

そこまで気合いが入っていたのか、と思いました。



お客様はとても満足したようで、嬉しそうでした。

それを見て私も嬉しく思いました。が、正直それ以上にドーッと疲れました。



実はそれ以外にも、飛行機で読んだ新聞に

東京でやるべき10のこと

という記事が載っていて、それを1日で全部やりたい!というのがリクエストになっていました。

買い物に時間をとられたので、とても昼食を食べている時間がなくなったところ、

「昼食は抜きでいい」

とおっしゃいました。

また「え?」と思いました。予算は「上限なし」ですから、

普通なら落ち着いた値段もそれなりのところにお連れするところです。



結局、「10のこと」の一つに

渋谷のスクランブル交差点を向かいのスタバから眺める

というのが入っていて、スタバでサンドイッチとコーヒーを食べることになりました。

それが「上限なし」の昼食になりました。

でも、お客様はとても嬉しそうでした。


「10のこと」を全てやって、ゴルフクラブも買って、何とか無事ホテルに時間までにお送りし、私の業務はそこで終わりました。

やりたいことが全部できて、ほんとに嬉しい。大満足している。

Michikoのおかげだね。本当にありがとう!

と言っていただきました。



そう言っていただけて、私も本当に嬉しく思いました。

同時に、VIPだからといってお金にアバウトだったり無頓着なわけでは決してなく、

むしろ経営者だからこそお金にシビアなのだ、と、自分の思い込みを反省しました。

お金がある人だから、お金を湯水のように使っても平気なわけではないということです。

そしてそれは、その方だけではなく、多くの外国人観光客に言えることだと後々思いました。

ですから、それ以来「買い物は商談通訳だ」と思っています。


それは金額や買い物の量には関係ありません。

たとえキーホルダーひとつでも、お菓子1箱でも

「こっちとあっちでどっちが安い?」

とお客様は気にしています。

それは、大量に買いたいからでもあります。



観光の現場では、お客様は常に「楽しみたい」と思っていて、そのために「買いたいものを買いたい」と思っています。

ですから、ガイドの「商談通訳」は「ただ言葉を訳すこと」ではありません。


時には意見を求められるし、またお店の人が言わないことでも、

その商品についてお客様に有益だと思える情報があれば、お伝えすることもあります。

ガイドの仕事は「商品を売る」ことではなくて、「お客様を喜ばせる」ことだからです。


ガイドがすすめることで、

「決断したい」

「これがベストだという確信を持ちたい」

「安心したい」

「背中を押してほしい」

と期待されているのを感じます。


私がすすめたものを「じゃあ、それにするよ。」という場合もあれば、

逆に「やっぱりこれにする」と自分の選択を通す場合もあります。

いずれにしても、「決定」のきっかけにすることを期待されている思います。



正直、モノを探すのに必死で、値段の比較まで手が回らないこともあります。

が、たまたま安かった時でも、お客様から

ここが一番安い!いい店に連れて行ってくれてありがとう!

と、思いがけずお礼を言われたりもします。



まだまだ修行は続きますが、お客様にたくさんのことを教えていただいた気がします。

これからも、ますますお客様にご満足いただける案内ができるよう頑張りたいと思います。



※この記事は、「やまとごころブログ」の中の筆者ブログ「英語、ときどきインドネシア語」にも掲載されたものです。
(掲載期間2012年10月~2016年5月) http://www.yamatogokoro.jp/sasayama/
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プロフィール

英語通訳案内士・篠山美智子

Author:英語通訳案内士・篠山美智子
英語通訳案内士。オーストラリア留学後、前職(日本語教育関係)でインドネシアとマレーシアに計8年滞在。2009年より通訳案内士専業。日本及び海外旅行会社の団体ツアー、個人旅行客(FIT)、企業のインセンティブ・ツアー、政府関係のプロジェクト等に就業。北海道から九州まで日本全国を周る。

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