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「通訳者」と「通訳案内士(通訳ガイド)」の違いは?

通訳案内士(通訳ガイド)です。」というと、


「え?じゃあ英語ペラペラなんですか?」


とよく言われます。


この「ペラペラ」というのは極めてあいまいな言葉だと思うのですが、世間のイメージとはそんな感じなのかなと思います。



 

いわゆる会議通訳などをする「通訳者」と、観光案内をする「通訳案内士(俗称通訳ガイド)」は、名前は似ていますが仕事やスキルがかなり違います。


当事者には違いは明らかですが、業界内でさえも、かなりあいまいに認識されていると感じることが多いです。


 

「通訳」というスキルは、基本的に「人が話したことを外国語から日本語に、あるいは日本語から外国語に訳す」という作業です(日本語とは限りませんが、日本での多くの場合。)。

 

ですから、まずは「相手が話したことを100%聞いて理解し、正しく解釈して訳す」という技能が求められます。


一字一句逃さず聞き、かつ背景を理解しながら訳すというのは、たとえ母語であっても相当な集中力と訓練が必要です。


日常生活では、ネイティブスピーカーであっても一字一句集中して聞くことはあまりなく、何となく聞き流すことも多いでしょう。


あるいは、背景から自分で解釈して何となく理解しているということも多いし、それで済んでいることが多いと思います。


しかし通訳となると、


「あ、ちょっと聞いていませんでした。」


という訳にはいきませんから、持続的な集中力が求められます。

 



以前通訳の学校で通訳の訓練を受けたときに、「リテンション」の練習が毎回ありました。


これは、短期記憶を保持する訓練で、具体的には、誰かが話したことを


そのまま一字一句繰り返す


という練習です。


例えば、

 

「財務省が発表した『法人企業統計調査によりますと、ことし7月から9月の企業の設備投資は、大型の物流センターの建設や、航空機の購入などで、非製造業が伸びたことなどから、去年の同じ時期を1.5%上回って、2期連続で増加しました。」


(出典:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131202/t10013497471000.html

 

という文を耳で聞いて、そのまま同じことを言うということです。

 


私は初めてこの訓練を受けた時、日本語であっても、あまりにできないことにショックを受けました(ましてや外国語ではもっと難しいです)。


耳で聞けば内容はわかるのです。


でも、「同じことを言う」となると、とても難しいのです。


いかに、普段一字一句はあいまいに聞いているかということがわかりました。


ネイティブスピーカーでも、訓練を受けないとなかなか「リテンション」はできません。


何を言っているか理解できなければ、訳すこともできませんから、通訳の作業ではこの「リテンション」がとても重要です。


つまり、「外国語が話せる」イコール「通訳ができる」ではないのです。


 

また、「通訳」の場合は、通訳者自身の「オリジナリティー」は求められません。


ここでいう「オリジナリティー」とは、勝手に言葉を足したり、自分の意見を加える、話を膨らませる、という意味です。


それでは「訳」を外れてしまいますので、あくまで相手の話した内容を忠実に訳すことが必要とされます。

(もちろん、語学力、スキルの差や言い回しの良しあしなどで差が出ることは言うまでもありません。)



通訳案内士1 




それに対して、「通訳案内士(通訳ガイド)」に求められるスキルは、主に「自分の言葉で観光案内をする」ということです。


加えて部分的に「通訳」が必要な場合もあります。


例えば酒蔵の見学で、杜氏の方がお酒の作り方を説明するのを訳すとか、


お寺で住職さんの説明を訳す、


買い物の時にお店の人とお客様のやりとりを手伝う、


といった場合です。

 


「自分の言葉で観光案内をする」ということは、人の言葉を訳す「通訳」とは対照的に、自分でシナリオを作らなければなりません。


これは無限の可能性がある一方で、決まった「答え」はないので誰も教えてはくれません。


最初のうちは、文をまる暗記して言ってみたりもしますが、やはり借りてきた言葉というのは説得力に欠けるので、自分で噛み砕いた言葉でないとなかなか伝わらないと感じます。

 


例えばお寺の説明をする時に、


「○○年に建てられて、○○宗のお寺で、ご本尊は○○で...


といった説明を外国人に淡々としても、ぴんと来ないしおもしろくないでしょう。


それよりも、浅草寺だったら


東京で一番古いお寺です。」


日本の主な宗教は仏教と神道で、浅草寺は仏教のお寺です。仏教と神道の違いは○○です。」


という説明をした方が、外国人にはピンとくると思います。


 

そのために通訳ガイドがすることは、まず現場である観光地に足を運び、知識を得るとともに、「その観光地の魅力」を自分で見つけることです。


自分がいいと思っていないと、お客様にはよさは伝わりません。


感じ方も、伝え方も、見る角度もガイドによって切り口は違いますので、常に工夫とオリジナリティーを求められるし、同じである必要はありません。


 

実際に足を運ぶということは、「実際に案内する」ために重要なことでもあります。


案内は、バスの中で話すことだけではなく、観光地を実際にお客様を連れて案内することも含まれますので、当然現地に行って動線(歩く道筋)や所要時間など現場の状況を確認することが必要です。


段差があれば注意も必要ですし、写真撮影ができるか、飲食してよいか、喫煙所の案内なども必要です。

 


また昨今の通訳案内士に求められるスキルのひとつとして、「添乗業務」があります。これは行程管理や立ち寄り先、食事場所、宿泊先等への連絡、バスドライバーとの打ち合わせ、またこれらをお客様に伝える作業があります。

 

国内の日本人向け旅行ではガイド添乗員1人ずつつくこともありますし、外国人の訪日旅行でも現地からの添乗員が同行することもあります。


またツアーによっては、日本人の添乗員と同乗することもあります。


しかし、多くの場合は主に「言語」と「コスト」の問題から、通訳ガイドが1人でガイド業務と添乗業務を行うということが多くなっているようです。

 

また通訳ガイド業務で発生する「通訳」というのは、いわゆる会議通訳の「通訳」とは違い、あくまで「観光案内」の一環であることが多いため、「通訳」の目的が微妙に違うと感じます。


 

つまり、会議通訳では余計なことを補足するのは適切ではありませんが、観光地での「通訳」はあくまでお客様に楽しんでいただくための通訳です。ですから、必ずしも「相手が言ったことのみ」訳すのではなく、必要であればわかりやすいように補足もするし、お客様の国に合わせて多少おもしろおかしく話したりもします。

 

買い物であれば、単に店の人が


「○○円です。」


「値引きはできません。」


というのを淡々と通訳するだけではなく、お客様が迷っているときには手助けすることもあります。


というのは、基本的にお客様は「買い物を楽しみたい」「買いたい」と思っているので、通訳ガイドが


「後で同じものがあるとは限らないので、ここで買っておいた方がいいですよ。」


とか、


「お似合いですよ。」


と言うことで、安心して買う決心がつくということがあります。


(決して押し売りはしませんし、よくないものは勧めないし、それで利益を得るわけでもありませんが、お客様が「いい買い物ができてよかった」と思うことが、観光を楽しむうえで大事だと思っています。)

 


ご存じのように、外国語で案内をするには「通訳案内士」という国家資格が必要ですし、それなりのスキルが求められることです。ですので、通訳者同様、これもまた「外国語ができる」イコール「ガイドができる」ということではありません


 

以上は、通訳者及び通訳案内士(通訳ガイド)の業務の一部分ではありますが、かなり業務やスキルが違うのはお分かりいただけるかと思います。


ですので、同じ外国語を使う仕事でも、職種によって全くスキルが異なってきます。


 

日本語の場合を考えると、例えば同じ日本語を使って病院で働く仕事でも、医師、看護師、臨床検査技師などそれぞれスキルが違いますし、「日本語ができれば何でもできる」というものではありません。


ましてや、弁護士、税理士、建築士、運転士など業種も違えばさらに違うのは明らかです。

 


言語」というのは、目に見えないものであるのに加えて、習得していない人にとっては「理解できないもの」であるため、その「専門性」がなかなか理解されにくいと思いますが、外国語を使う仕事も実は多種多様です。

 


※この記事は、「やまとごころブログ」の中の筆者ブログ「英語、ときどきインドネシア語」にも掲載されたものです。

(掲載期間2012年10月~2016年5月) http://www.yamatogokoro.jp/sasayama/


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プロフィール

英語通訳案内士・篠山美智子

Author:英語通訳案内士・篠山美智子
英語通訳案内士。オーストラリア留学後、前職(日本語教育関係)でインドネシアとマレーシアに計8年滞在。2009年より通訳案内士専業。日本及び海外旅行会社の団体ツアー、個人旅行客(FIT)、企業のインセンティブ・ツアー、政府関係のプロジェクト等に就業。北海道から九州まで日本全国を周る。

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